第17回日本音楽療法学会四国支部学術大会 ~教育講演、大会長講演について

8月7日(日)に高知県で開催される四国支部学術大会にてご講演いただく、十一先生の教育講演の概要と、上羽大会長による大会長講演の概要をお知らせいたします。

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教育講演(市民公開講座)

「神経発達症の臨床問題と支援の方向性」  十一元三

京都大学大学院医学系研究科 人間健康科学系
先端リハビリテーション科学コース 臨床認知神経科学分野

  
近年、自閉スペクトラム症(ASD)あるいは注意欠如多動症(ADHD)を代表とする神経発達症は、医療、教育、リハビリテーション、認知行動療法、心理療法ほか各種療法のターゲットとして注目を集めている。発達症、とりわけASDに対して多様なアプローチが試みられる理由の1つとして、従来より精神医療の対象であった一般精神疾患と異なり、ASDの人は極めて多彩な精神症状ならびに多領域(運動、感覚、言語、認知機能など)の発達課題をかかえやすい点が挙げられる。
 抑うつ症状や不安症状のような合併症、そして双極性障害などの併存症については薬物療法を中心とする医療的アプローチが有効であるが、そのようなアプローチは発達課題に対してはこれまでのところ有効性はあまり認められていない。レオ・カナーによる最初の症例報告(1943)からしばらくの間、主にアメリカにおいて応用行動分析(ABA)のような専ら行動療法的な介入が盛んとなった。厳格なスキーマをもつ行動療法は手順の決まった個別取り出し学習と明確な効果判定基準が特徴であるが、適応的な行動パターンの学習に適している一方、子供に内在する心身機能の発達促進という側面については主力のアプローチとは言い難い。
 初期の行動療法と並行して、プレイセラピー、運動療法、感覚統合(sensory integration、SI)などの子供にとってより自然な活動を用いたアプローチも登場し、一部の子供たちに発達促進が認められた。恐らく、音楽療法ではリズム、メロディ、タイミングという人間の社会的行動の基本要素が介入方法論の前面に現れている点で独自のアプローチであり、音楽療法でしか生み出し難い作用があるように思われる。社会性の低発達を中心的課題とするASDにおいて、どういう形態の音楽療法が他の方法では困難な介入効果をもたらすことができるのか、今後、期待しつつ見守っていきたい。

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大会長講演(市民公開講座)

「音楽+科学=音楽療法 ~なぜ私たちは音楽を使うのか~」 上羽(糟谷)由香 氏

医療法人白菊会 白菊園病院,京都大学大学院医学研究科

 私たち音楽療法士は,音・音楽を使って対象の方が抱えておられる困難やニーズにアプローチしていく専門職です.音楽というのは,一般的には芸術分野のひとつと認識されていますが,ではなぜ私たちは「芸術である音楽」を,医療・福祉現場において臨床道具として用いるのでしょうか.それは,対象者の機能レベルや特徴,行動や反応に合わせて,変幻自在に調整可能な音・音楽という媒体を用いることにより,対象者との間で「音・音楽による対話」を成立させ,あらゆる臨床活動の土台となる人と人との関係性がその中で育まれ深められることによると考えます.そして,その関係性の中で展開される取り組みによって,対象者にとって困難なことや課題となっていることが音・音楽によって促され,「音・音楽による対話」の中で良い手応えを繰り返し経験し,そして神経系の働きが最適化されていくわけです.音楽および音楽療法の認知神経科学的研究の進歩により,私たち人間が音楽をしているときに働かせている認知や運動や言語の神経系は,日常生活の中で働かせる認知や運動や言語の神経系と共有・重複していることがわかってきました。そして、音楽を用いることでこれらの神経系の働き,つまり機能や能力を改善することの有効性が「エビデンス」として蓄積されてきています.私たち音楽療法士は「芸術である音楽」を科学的な視点でとらえ,その影響を,対象の方々のよりよい生活,よりよい人生の実現のために活かしていく「技」と「術」を有する支援者たるべきと考えます.
本講演の最後で,自閉スペクトラム症の子どもとの音楽療法臨床の場面を紹介したいと思います.音楽療法臨床における「音・音楽による対話」の一例として,音楽による介入の即興性,およびその即興性によって成立した社会的相互交流,そしてその社会的な相互交流の中で,子どもの注意が徐々に「音」から「人(セラピスト)」に定まっていく様子をご覧いただきたいと思います.社会的コミュニケーションに困難を抱える自閉スペクトラム症の子どもと「音楽による対話」が成り立ち,その対話が,他者への注意の定位,その注意の持続,そして他者との感情の共有をもたらしたと考えられる一例です.

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全プログラムへ参加される【日本音楽療法学会員、一般の方】 (締切7/15 17:00振込確認まで)

申し込みは こちら から

※定員は150名です。まだまだご参加いただけます!!

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※7/16以降の申込について

第17回実行委員会運営事務局(jmta.kochi@gmail.com)に必ずお問合せください。事前申込・一般公開講座の受付人数次第では、当日受付できない場合がございます。

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※市民公開講座のみへの申込について

7/16以降にホームページにてご案内いたします。しばらくお待ちください。

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